• №2 遺言書の重要性

  • この子に会社を引き継がせたい,家を引き継がせたいという方は必ず遺言書を書きましょう。

    ◎「嫡出でない子」の相続分の最高裁判所大法廷判決をきっかけに考える

     平成25年9月4日に「嫡出でない子」の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号の規定について,最高裁判所大法廷の裁判官全員一致で違憲の判断がなされました。

     裁判所の判例は,個別の事件に対する判断であるという建前ですが,最高裁判所が,この民法の規定を違憲・無効であると判断したことによって,少なくとも,今後,裁判所に申し立てられる相続関係の事件について,婚姻関係にある両親から生まれたか否かにかかわらず,子供の法定相続分が平等であることを前提に判断されるという事実上の拘束力を持つことになります。

     この判決の善し悪しはおくとして,相続の争いが起こるのは,内妻にお子さんがいるときばかりではありませんので,この判決が出たことを契機に,相続財産の分け方について考えてみましょう。



     もともと民法では「相続分」という規定があり,相続人が複数いる場合には,誰か1人には財産を集中させない制度になっています。

     戦前は,「家督相続」という制度があり,戸主が,隠居して,新たな戸主を定めれば,原則として,財産は新たな戸主に当然に引き継がれていくことになっていました。

    「家制度」と財産の承継が一体だったわけです。

     戦後,現在の民法になって,これでは不平等だということで,大きく修正されました。

     しかし,それでも,しばらくは,まだ「家制度」的な発想が残っていて,例えば夫がなくなり,妻と子が残された場合には,妻が3分の1,子が3分の2とされていました。ようやく昭和56年から改められて妻の相続分が2分の1になって今日に至っています。

     ただし,むしろ,問題の端緒になりやすいのは,兄弟姉妹の間です。

     兄弟姉妹同士は完全な平等です。民法の規定は,亡くなった人の財産を守ってきた人,最後まで面倒を見た人が誰かを考慮した配分を予め決めているわけではありません。仮に,そのような規定があったとしても,なかなか決めきれないのではないでしょうか。

     確かに,今の法律でも,寄与分という制度があって,一定の範囲では,亡くなった方の財産の増加に貢献した人の相続分を多くするなどの修正ができることになっていますが,相続人のうち,1人でも反対すれば,財産を誰か1人に集中させるようなことはできません。

     今の民法で,この相続分を大幅に修正できる制度が「遺言」です。

     遺言があれば,遺産分割協議をせずとも,指定されている人が指定されている財産を当然に引き継ぐことが可能となります。遺留分という,これを修正する制度もありますが,個々の財産を誰に引き継がせるかという点まで修正するものではありません。

     1軒しかない自宅を2人の子供に平等に分け与えることはできませんし,一つの会社の株式を2人の子供に平等に分けてしまうと経営の混乱を招きます。財産の多い少ないにかかわらず,どのようなご家庭でも,兄弟姉妹間の争いが生じてしまう可能性があるのです。

     遺産分割協議が円満にいかなければ,解決の期限が特段定められていないだけに,次の世代に紛争が持ち越されてしまうこともあります。調停を申し立てたり,弁護士に依頼したりするとなれば,対象となる財産の額に応じて,3桁以上の金額の費用がかかることが予想されます。

     遺言書の作成については,定型的なものであれば弁護士が監修するとしても20万円程度が標準的な手数料額です。後日,遺言書の効力自体が争われにくいように公正証書にするにしても,一般的には数十万円以内には収まります。

     この子に会社や自宅を引き継がせたいという方は必ず遺言書を書きましょう。

     親の意思を明確に残してあげることで,お子さんたちも,その遺志を汲んで平穏に仲良く暮らしていく指針ができることになります。

    2013年9月11日 山﨑